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福岡家庭裁判所 昭和40年(家)71号 審判 1965年10月05日

申立人 中川シナ(仮名) 外六名

相手方 中川勇(仮名)

被相続人 中川福一(仮名)

主文

相手方は、申立人中川シナに対し金一〇〇万円、その他の申立人六名に対し各金二五万円宛をいずれもこれに対する昭和四〇年三月一日以降年五分の割合による金員を附加して、これが支払いをせよ。

理由

一、本件申立の要旨、相手方の主張、それらの経過

(イ)  被相続人亡中川福一は、昭和二四年三月二日死亡したが、同人は当時福岡市大字○○五七七番地の一に別紙目録記載の居宅三棟とその借地権を有していた。

申立人中川シナは被相続人の配偶者で、その他の申立人らは、その長女、二女、三女、四女、五女、及び四男で、相手方勇は長男である。(二、三男は幼少時死亡)。

被相続人死亡後の昭和二八年頃から、前示建物の所在していた宅地の所有者大月良男との間に、同地主が原告、相続人ら全員が被告となつて家屋明渡訴訟が係属し、相続人らの勝訴となり、その後和解によつて前示借地権消滅の代償として地主から金一四〇万円を受けることになつたが、これを相手方が単独で受領して申立人らに配分せず、又博多駅移転のための区画整理があり、前示建物の移転費用として福岡市当局から相続人ら八名に対し金二八〇万一、〇五一円が交付され、相手方が代理人としてこれを受領しながら、申立人らは遺産分割の権利を放棄しているといつて、遺産分配に応じない。そして相手方は、前示交付金によつて、福岡市○○○○町五九四番地に宅地一〇〇坪を買い求め、木造瓦葺二階建延坪三一坪五合の住宅を建築している状況であるが、相手方が受領した前示金員は、遺産である目録記載の建物及び借地権に代るものであるから、これが分割を求めるため本件申立に及んだというのである。

(ロ)  相手方は、別紙目録記載の建物は、被相続人の存命中既に口頭によつて贈与を受けていたので、遺産でない。仮りに遺産であつたとしても、昭和三七年頃申立人らは中川進を除いて相続の放棄をしているから、遺産分割の請求権はない。仮りに分配に応ずべきものとしても、相手方は昭和六年以降約一五年間にわたつて弟妹らのため面倒をみてきたこと。相続税を昭和二五年一二月九日納付していること、(その内訳は田上みかの分が三、〇七四円、中川シナの分が一万一、二一八円、その他の申立人らの分が各三、〇八四円である。)相続後地主に対し月額一、六九〇円の地代支払いをしていること、固定資産税一期分九二〇円乃至九三〇円の支払いをしていることなど、これらの事情を参酌すれば、申立人らには分配すべきものはないから、申立人らの本件申立は失当であるというのである。

(ハ)  当裁判所は、昭和四〇年二月二四日以降同年四月二一日まで三回にわたつて調停を試みたが、相手方において、申立人らが相続の放棄をしている点を強調し不調に帰した。

二、当裁判所の判断

本件記録中の戸籍謄(抄)本、本件建物に関する閉鎖登記簿謄本と、当裁判所調査官尾藤清一の昭和四〇年二月一〇日附調査報告書によれば、被相続人中川福一は昭和二四年三月二日死亡したので申立人中川シナはその妻として、その他の申立人ら六名と相手方はその直系卑属として、それぞれ1/3及び2/21の相続分を有する相続人となつたのであつて、本件建物は、その死亡当時被相続人所有名義に登記されていたのであるから、該建物及びその借地権が遺産に属したことは明らかである。

相手方は、被相続人の生前口頭によつて贈与を受け、遺産に属しないと主張するけれども、これを認むべき確証はないから採用しない。

次に昭和三七年頃、中川進を除いてその他の申立人らは、相続しない旨を表明し、相手方と中川進が遺産の相続をすることに分割協議が整つていたと主張するので、この点について審案してみるのになるほど遺産分割協議書と題する書面二通に申立人らのうち大浜タカ、沢田さよ、田上みか子、小松京子が記名押印していること、証人水野直の証言によつて、該書面の前示記名押印部分を除いた文言の記載は、同弁護士宅事務員の筆跡であることが認められるが前掲四名以外の記名押印はなされていないのみならず、協議の内容年月日欄いずれも空白となつているから、相手方主張のように、進を除くその余の申立人らが相続を放棄し、相手方と進の両名が遺産分割を受ける旨の協議が整つていたと認めることはできない。前掲証人の証言によつても、申立人らが相続放棄をしたことを認めることはできず、他にこれを認めるに足る確証はない。よつて相手方のこの点に関する主張も採用できない。

そして尾藤調査官の昭和四〇年五月三一日附調査報告書、福岡市長の昭和三八年一月一〇日附移転除却の通知書、同年一〇月三〇日附大月良男と相手方間の契約書、昭和三八年六月三〇日附福岡市長宛委任状七通(申立人らが、相手方を代理人として、博多駅地区土地区画整理事業の施行に伴う協議補償金の決定、契約の締結、並びに履行に関する一切の件を委任)、昭和四〇年八月二七日附福岡市長の嘱託回答書、申立人中川シナ代理人小松実に対する審問の結果を合せ考えれば、次の事実を認めることができる。

すなわち、別紙目録記載建物の敷地の所有者大月良男から昭和二八年頃借地権の消滅を理由に家屋明渡訴訟が提起され、申立人七名と相手方を含む相続人八名が前掲清水弁護士を代理人として応訴していたが、申立人らにおいて勝訴したこと(上告審で確定)、昭和三八年一月一〇日附で博多駅地区土地区画整理事業施行者福岡市長から同年四月二〇日までに目録記載建物の移転又は除却を完了することの通知を受けていたこと、同年一〇月三〇日附契約書によつて、前掲地主大月良男との間に一一月二日までにこれら家屋を収去してその敷地六七坪を返還すれば、返還料として金一四〇万円を支払う旨の契約が結ばれ、その頃相手方が申立人ら七名の代理人兼本人として該金額を受領していること、福岡市からは同年一〇月三一日までに建物除却を求められ、これが補償費などとして合計金二八〇万一、〇五一円をその頃前同様資格で支払いを受けているが、その内容を仔細に検討すれば、本件建物及び工作物の移築除却補償金は合計二一〇万三、六六八円であるから、前掲借地権に代る地主からの返還代償金一四〇万円と合して三五〇万三、六六八円が、遺産として分割の対象となることが認められる。

尤もこれらは、申立人らが相手方に対しその受領方を委任し、相手方が福岡市及び地主から申立人らの分も含めて受領しながら、申立人らにこれを配分せず横領しているのであるから、純然たる債務不履行もしくは不当利得たる性質を有する債権にすぎず、家事審判法九条一項乙類一〇号にいう遺産の分割対象には包含されないとの見解もあり得るが、本件当事者間には遺産である建物、借地権に関し相続の放棄があつたとして争われているのであるから、遺産であつた建物及び借地権に代る資産である前示債権に関しては、当裁判所においてこれが判断を示すべきで、申立人らはこれが審判を求める利益を有するものといわねばならない。すなわち前示債権は、遺産である建物及び借地権が変形したものにほかならないから、遺産分割の対象としてこれが分配をなすべきである。

そこで相手方が納付している相続税、固定資産税、前掲地主に対し支払われた地代など、諸般の事情を参酌すれば、相続開始の昭和二四年三月以降昭和三七年まで月額一、六九〇円の地代額が二八万〇、五四〇円(一三年一〇月分)、固定資産税額が年額三、七二〇円として約一三年分四万八、三六〇円となるので、合計三二万八、九〇〇円を前掲三五〇万三、六六八円から控除すれば、三一七万四、七六八円となり中川シナの取得額1/3が一〇五万八、二五六円、その他の申立人らの取得額2/21が三〇万二、三五八円(円以下切捨)となるから、更に相手方が代納した相続税額(シナについては一万一、二一八円、田上みかについては三、〇七四円、その他の申立人らは各三、〇八四円であることが、領収証書によつて明らかである。)を控除すれば、申立人シナが一〇四万七、〇三八円、申立人田上みかが二九万九、二八四円、その他の申立人ら五名が各二九万九、二七四円となることが算数上明らかである。しかし一方相手方が申立人らを代理して前掲委任事務を処理し、それがため相当額の必要費を支払つていることも当然推測されるので、これらの点を考慮すれば相手方は、申立人中川シナに対しては金一〇〇万円、その他の申立人ら六名に対しては各金二五万円宛を、いずれも本件第一回調停期日(昭和四〇年二月二四日)の後である昭和四〇年三月一日以降年五分の割合による利息金を附加して、これが支払いを命ずるのが相当である。

よつて主文のとおり審判する。

(家事審判官 厚地政信)

物件目録<省略>

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